今、練習している曲のCDなど
聴いてみたいとお考えの方へ

鈴木優  

パレストリーナ:O beata Trinitas と、モラレス:Manus tuae Domine の2曲には、 私の知る限りでは、残念ながら録音は無いと思います。もし皆様の中でCDの存在を ご存知の方がおられましたら、是非お知らせ下さい。しかし、パレストリーナの 他の作品でしたら、タリス・スコラーズ、プロ・カンツィオーネス・アンティカ、 ヒリアード・アンサンブルなどの優れたCDが多数ありますし、モラレスと同時代の スペインの教会音楽では、アクサン・レーベルのラ・コロンビーナという4人組の アンサンブルのものが、私は好きです。これらのCDからこの時代の音楽のスタイル が良く理解できると思います。

ペルトの Magnificat のCDで、元ヒリアード・アンサンブルのリーダー、 P.ヒリアードが活動の拠点をアメリカに移した後に結成した Theatre of Voices の録音は、とても良いです。CDのタイトルは、"Arvo Paert: De Profundis" という もので、フランス・アルモニア・ムンディの制作です。他にもいくつかのCDがある ようですが、ペルトを演奏したCDには、大外れというのはあまり無いと思います。

さて、モーツァルトの Requiem ですが、どこのCD売場でも15種類くらいは 並んでいmるので、選択が難しいところです。しかし、実際の演奏の参考として お薦めしたいのは、ズバリ、リッカルド・ムーティ指揮のものです。 オーケストラはベルリンP.O. 合唱は、かの有名なスウェーデン放送cho. と ストックホルム室内cho. です。これはとにかく、すべての Requiem のCDの中で 抜群に合唱が上手です。しかも、おまけに私達もアンコールで歌う "Ave verum Corpus" も入っています。EMI の国内盤で最近 1,800円くらいで再発売された ようです。ちなみに同じ演奏者の組合わせで、ヴェルディの“聖歌四篇”のCDも あり、これも是非聴いた方が良いですよ。

それから、1,200円で買えて、素晴らしい内容なのは、カルオ・マリア・ジュリーニ 指揮、フィルハーモニア O. cho のEMIのCDです。私の好みとしては、 Hostias のテンポが遅すぎると思いますが、合唱も良いですし、また特に ソリストのアンサンブルが美しいですね。

これらのCDを聴いた上で、次に聴かねばならないのは、なんと言っても、 カール・ベームが、ウィーン|P。P。と歌劇場の合唱団を指揮したドイチェ・ グラムフォンのCDです。これは、もう「立派」の一言に尽きる演奏で、 普通には、このような遅いテンポでは演奏できませんね。CDに合せて一緒に 歌って練習しようと思う人は、あまりにも息が足りなくなるので、他のCDに した方がよいでしょう。

古楽系演奏団体のものを聴くには、その次くらいでいいんじゃないでしょうか。 刺激を求める人には、アーノンクールの演奏でしょう。同じ小節数の音楽を 演奏しても、ベームは63分かかり、アーノンクールは48分で終わるというのは、 非常に興味深いことです。ベームは19世紀のスタイルで、しsてアーノンクールは 17世紀のスタイルで、それぞれ18世紀末のモーツァルトにアプローチしている ということなんですね。

Requiem は、未完成の作品であって、その補筆を誰がした楽譜を使用して演奏して いるかも、購入の際にはチェックするべきでしょう。私達はジュスマイヤー版で 演奏いたします。主な違いはオーケストレーションにあるのですが、たとえば、 ホグウッドの録音のモンダー版は、Mozart 自筆部分が無いという理由で、 Sanctus, Benedictus をカットし、Lacrimosa の後に Amen のフーガを置いて います。80年代には、このようないくつかの新しい補作版が作られましたが、 これは、むしろ商業主義的な意図の強いものであったと思います。現在でも、 価値を保っているのは、やはりモーツァルトの弟子のジュスマイヤー版と、 1971年出版のバイヤー版の2つであると言えます。特別な表示のないCDは、 ジュスマイヤー版使用と考えていいでしょう。ちなみに、前に挙げました、ムーティ、 ジュリーニ、ベームは、ジュスマイヤー版、アーノンクールはバイヤー版による 演奏です。

22. Sep. 1998
『合唱団通信』 No.111 (1998.9.30) 掲載

戻る