第3回定期演奏会《J.S.バッハ 宗教音楽の世界》1990.3.10 ノバホール

【演奏者】
指揮 鈴木優 / アルト 阪口直子/ テノール 斉藤新一 / バリトン 山崎岩男 / リコーダー 吉澤徹,荒巻朋康 / ヴィオラ・ダ・ガンバ 風早一恵,橋爪香織,小澤絵里子 / オルガン 渡部聡 / 合唱 つくば古典音楽合唱団


【プログラムと演奏録音】
Johann Gottfried Walther (1684-1748) ワルター
Jesu, meine Freude 「イエスよ、わが喜びよ」
によるコラール前奏曲
03-01.mp3: 3.2 MB
Johann Sebastian Bach (1685-1750) バッハ
Motette Nr. 3, "Jesu, meine Freude", BWV227 イエスよ、わが喜びよ  
1. Choral "Jesu, meine Freude" 03-02.mp3: 1,0MB
2. Chor "Es ist nun nichts Verdammliches an denen" 03-03.mp3: 2.5MB
3. Choral "Unter deinen Schirmen" 03-04.mp3: 1.1MB
4. Chor "Denn das Gesetz des Geistes" 03-05.mp3: 938 KB
5. Choral "Trotz dem alten Drachen" 03-06.mp3: 2.0 MB
6. Chor "Ihr aber seid nicht fleischlich" 03-07.mp3: 2.7 MB
7. Choral "Weg mit allen Schaetzen!" 03-08.mp3: 1,0MB
8. Chor "So aber Christus in euch ist" 03-09.mp3: 1.8MB
9. Choral "Gute Nacht, o Wesen" 03-10.mp3: 3.1MB
10. Chor "So nun der Geist des" 03-11.mp3: 1.4MB
11. Choral "Weicht, ihr Trauergeister" 03-12.mp3: 1.1MB
-休憩-
Johann Sebastian Bach (1685-1750) バッハ
Kantate Nr.106 ---- Actus Tragicus
"Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit",
BWV106
神の時こそいと善き時  
1. Sonatina 03-13.mp3: 2.2MB
2. Chor "Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit"
Arios (Tenor) "Ach, Herr, lehre uns bedenken"
Arie (Bass) "Bentelle dein Haus"
Chor und Arioso "Es ist der alte Bund" "Ja, komm, Herr Jesu, komm!"
03-14.mp3: 8.2MB
3. Arie (Alt) "In deine Haende befehl ich meinen Geist"
Arioso (Bass) und Choral "Heute wrist du mit im Paradiese sein"
"Mit Fried und Freud ich fahr dahin"
03-15.mp3: 8.2MB
4. Chor "Glorie, Lob, Ehr und Herrlichkeit" 03-16.mp3: 3.0MB

Encore: Kantate Nr. 106 "Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit" BWV106 03-17.mp3: 2.6 MB


【プログラムノート
《合唱曲》 鈴木 優

モテット第3番「イエスよ、わが喜びよ」BWV227
モテット第3番「イエスよ、わが喜びよ」は、1723年7月18日にライプツィッヒ聖ニコライ教会で行われた、中央郵便局長未亡人ヨハンナ・マリーア・ケーゼの追悼礼拝の際に歌われるために作曲されました。

バッハの現存する6曲のモテットは、すべて祝典や葬儀のために依頼されて作られたものです。それらの依頼はバッハにとって貴重な臨時収入をもたらすものであったようで、友人にあてた手紙の中には「しかし、ひとたび健康な風が吹くと、反対に収入は減り、例えば昨年は、葬儀によってふだん得られる臨時収入を100ターラー以上も失った次第であります。」といった文面も残っております。

このモテットは、J・クリューガーが1656年に作曲したコラール(ドイツ・プロテスタント教会の賛美歌)「イエスよ、わが喜びよ」による6節からなるコラール編曲の間に、おそらく故人の意志によって選ばれたであろう、「ローマ人への手紙」第8章の詩句をテキストとする5曲の合唱曲をはさみ込んでいくという構成をとっています。全曲は11の部分からなっているわけですが、第1曲と終曲が比較的単純な4声のコラール編曲であり、また第2曲を短縮したものが第10曲にあたるというように、中央に位置する第6曲のフーガを軸に完全な対称形を形作っています。

細部に目を向けますと、歌詩の言葉を象徴的に、あるいは絵画的に描写する音型が多用されています。例えば「霊」(Geist)という言葉には、肉体に制約されない自由さを表すかのように、柔軟なメリスマが与えられておりますし、「陰府(よみ)の淵」(Abgrund)という言葉では各声部が一気に下降する音型が歌われます。このような手法はルネサンスや初期バロックの主にマドリガーレなどで、ひんぱんに用いられましたが、バッハの時代に於いても、重要な音楽の発想法であったといえるでしょう。

本日の演奏は、3~5声部の合唱にオルガンとヴィオラ・ダ・ガンバという構成で行います。

またモテットに先立って演奏されるオルガンの独奏曲も、同じコラールを主題にしたものでありますので、その点もお聴きいただけれぱと存じます。

カンター夕第106番「神の時こそいと善き時」 BWV106
現在、私たちには200曲に少々満たないという数の、バッハの教会カンタータが残されています。(バッハは約300曲の教会カンタータを作曲し、そのうち約100曲が失われてしまったと推定されています。)

カンタータ第106番「神の時こそいと善き時」は最も初期のカンタータで、ミュールハウゼンの教会オルガニストであった1707年に、母方の伯父の葬儀のために作曲したと伝えられています。ちなみに、バッハのカンタータ番号は作曲年代などには全く関係がなく、19世紀に旧バッハ全集が編さんされた時に、とりあえず与えられた番号にすぎません。バッハの初期のカンタータは、ライプツィヒのトマス・カントールに就任した1723年以降の作品と比べても独特の魅力に満ちあふれているといえるでしょう。

第106番では、2本のリコーダー、2台のヴィオラ・ダ・ガンバ、そして通奏低音というユニークなオーケストレーションによる響きが、まず聴く者の耳を引きつけるでしょう。この穏やかな序奏は、この音楽を聴く者の心を大変感性豊かな状態に導くのに役立つと思われます。

それに続く、合唱~テノールとバスの独唱によるアリオーソ~合唱と続く大きな楽章は、テキストの変化に応じて、豊かな楽想が次々に繰り出されていきます。このカンタータ全体を通じて、レチタティーヴォやダ・カーポアリアといった類型的な形式を一切用いていないことも重要な特徴であるといえましょう。

この楽章の最後の合唱では、アルト以下の3声による「そは古き絆なり、人よ、汝は死すべきなり」という絶望的なフーガに対して、ソプラノによる「しかり、来たれ、主イエスよ、来たれ」と歌う旋律が答え、真に救いたる光明が差し込んだかのような効果をうみ出します。またこの時にリコーダーが「我わがことを神に委ねたり」というコラールの旋律を演奏することも注目するべきでしょう。続くアリアではアルト独唱が、すでに死に対する恐れを克服したかのように詩篇によるテキストを歌い、更にイエスが十字架上で言った「今日、汝はわれとともにパラダイスにあるべし」という聖句をバスが独唱するのを受けて、われわれ一般の人間の声の象徴であるコラールのうち、「われ神のみ心のままに心安らかに喜びてかの地に行かん」が合唱によって歌われます。イエスの言葉と、一般の人間の言葉による応答とが、二重に進行していく楽想のすばらしさは筆舌に尽くし難く、この部分は全曲中の感動の中心であると思われます。

終曲は、喜びと力強さにあふれたコラール「栄光と賛美と栄誉と主権とが」とそれに続く生命力にあふれた二重フーガによる「アーメン」でしめくくられます。

バッハの22才の時の作品でありながら、キリスト教的死生観の奥深い把握、そしてそれを音化する完成された技術は実に驚くべきものであります。


【歌詞対訳】
                                                  
Jesu, meine Freude イエスよ、わが喜びよ
1.Choral 1.コラール
Jesu, meine Freude, イエスよ、わが喜びよ、
meines Herzens Weide, わが心の楽しむ牧、
Jesu, meine Zier, わが身の飾りなるイエスよ、
ach wie lang, ach lange ああ、いく久しく、げに久しく
ist dem Herzen bange わがこころもだえ
und verlangt nach dir! きみをば慕いてあくがれこしぞ!
Gottes Lamm, mein Bräutigam, 神の子羊、わが花婿、
außer dir soll mir auf Erden きみいまさずばこの世にて
nichts sonst Liebers werden. わが心をひきとむるもの絶えてなし。
(《Jesu, meine Freude》
J.フランク作イエス愛の歌[1653]第1節)
2.Chor 2.合唱
Es ist nun nichts Verdammliches an denen, いまや罪に定めらるることなし、
die in Christo Jesu sind, キリスト・イエスにあるものは。
die nicht nach dem Fleische wandeln, 彼ら肉によりて歩まず、
sondern nach dem Geist. 霊によりて歩めばなり。
(ローマの信徒への手紙 8:1
[ルター訳(以下同じ)] )
3.Choral 3.コラール
Unter deinen Schirmen きみがみ翼のもとにありて
bin ich vor den Stürmen われは、嵐と寄せくる
aller Feinde frei. 敵の万軍をも恐れず。
Laß den Satan wittern, サタンよ、荒れ狂え、
laß den Feind erbittern, 敵よ、たけり立て、
mir steht Jesus bei. イイエスわれにつきたもう。
Ob es itzt gleich kracht und blitzt, よし天の鳴りとどろきていかづちを下し
Ob gleich Sünd und Hölle schrecken: 罪罪と陰府その口を開きて脅かすとも、
Jesus will mich decken. イエスわれをかばいたもう。
(《Jesu, meine Freude》第2節)
4.Chor 4.合唱
Denn das Gesetz des Geistes, そはキリスト・イエスにありて
der da lebendig machet in Christo Jesu, 生命を与うる御霊の法則は、
hat mich frei gemacht われを罪と死の法則より
von dem Gesetz der Sünde und des Todes. 解き放ちたればなり。
(ローマの信徒への手紙 8:2)
5.Choral 5.コラール
Trotz dem alten Drachen, さあれ、年を経し竜よ、
Trotz des Todes Rachen, さあれ、死の虎口よ、
Trotz der Furcht darzu! さあれ、内なる恐怖よ、襲い来たれ!
Tobe, Welt, und springe, 世よ、ゆれ動きて砕け散れ、
ich steh hier und singe われはここに堅く立ちて歌わん、
in gar sichrer Ruh. 揺るぎなき平安の砦のあれば。
Gottes Macht hält mich in acht; 神の力われを守れり。
Erd und Abgrund muß verstummen, 地も陰府の淵もついに黙さであらじ、
ob sie noch so brummen. よしなお烈しく吼えたけらんとも。
(《Jesu, meine Freude》第3節)
6.Chor 6.合唱
Ihr aber seid nicht fleischlich, されど汝らは肉にある者ならで、
sondern geistlich, 霊にある者なり。
so anders Gottes Geist in euch wohnet. そは神の御霊汝らのうちに宿りたまえばなり。
Wer aber Christi Geist nicht hat, キリストの御霊を持たざる者は、
der ist nicht sein. キリストのものにあらず。
(ローマの信徒への手紙 8:9)
7.Choral 7.コラール
Weg mit allen Schätzen! すべての宝よ、去れ!
Du bist mein Ergätzen, きみこそわが愉悦なれ、
Jesu, meine Lust! イエス、わが逸楽よ!
Weg, ihr eitlen Ehren, むなしき栄誉よ、去れ、
ich mag euch nicht hören, われは汝らごときに耳を貸さじ、
bleibt mir unbewußt! われ汝らを知らず!
Elend, Not, Kreuz, Schmach und Tod 悲惨、困窮、十字架、恥辱、しかして死、
soll mich, ob ich viel muß leiden, よし多くの艱難となりて攻めかかるとも、
nicht von Jesu scheiden. われをばイエスより引き離つことなし。
(ローマの信徒への手紙 8:35 ~ 39)
《Jesu, meine Freude》第4節)
8.Chor 8.合唱
So aber Christus in euch ist, されどキリスト汝らにいまさば、
so ist der Leib zwar tot 身体は罪のゆえに
um der Sünde willen; 死にたるものなれど、
der Geist aber ist das Leben 霊は義のゆえに
um der Gerechtigkeit willen. 生命にあらん。
(ローマの信徒への手紙 8:10)
9.Choral 9.コラール
Gute Nacht, o Wesen, いざさらば、世の選びとりし
das die Welt erlesen, 生きざまよ、
mir gefällst du nicht. そはわれにそぐわず、
Gute Nacht, ihr Sünden, いざさらば、もろもろの罪よ、
bleibet weit dahinten, 遠きかなたに失せよ、
kommt nicht mehr ans Licht! またと日の目を見ざれ!
Gute Nacht, du Stolz und Pracht! いざさらば、傲りと奢りよ!
Dir sei ganz, du Lasterleben, 悪にまみれし生活よ、心はれやかに汝に告げん、
gute Nacht gegeben. いざさらば、永遠の眠りに就け、と。
(《Jesu, meine Freude》第5節)
10.Chor 10. 合唱
So nun der Geist des, かくて、イエスを死人の中より
der Jesum von den Toten auferwecket hat, 甦えらせたまいし者の御霊、
in euch wohnet, 汝らのうちに宿りたまわば、
so wird auch derselbige, キリストを死人の中より
der Christum von den Toten auferwecket hat, 甦えらせたまいし者は、
eure sterbliche Leiber lebendig machen 汝らの死ぬべき身体をも生かしたまわん。
um des willen, daß sein Geist in euch wohnet. そは汝らの内に宿りたもう御霊によるなり。
(ローマの信徒への手紙 8:11)
11.Choral 11. コラール
Weicht, ihr Trauergeister, 退け、悲しみの霊ども、
denn mein Freudenmeister, わが喜びの君にています
Jesus, tritt herein. イエスに来たりたまえば。
Denen, die Gott lieben, 神を愛する者には
muß auch ihr Betrüben 心くもらす逆境もまた
lauter Zucker sein. 甘き喜びたるべし。
Duld ich schon hier Spott und Hohn, たとえわれここにて嘲りと辱しめを受くるとも、
dennoch bleibst du auch im Leide, しかり、悩みの壁われを囲むとも、なお、きみこそ、
Jesu, meine Freude. イエスよ、わが喜びよ。
(《Jesu, meine Freude》第6[終結]節)
[杉山 好 訳]