第33回定期演奏会 「ルネサンスからバロックへ、イタリア音楽の系譜」2019.11.29 ノバホール

【演奏者】
揮揮 鈴木優/ソプラノⅠ 和泉純子/ソプラノⅡ 大川晴加/メゾ・ソプラノ 米谷朋子/コンサート・ミストレス 神戸愉樹美/オーケストラ つくば古典音楽合奏団(第1ヴァイオリン 神戸愉樹美 天野寿彦 渡邊慶子 高岸卓人; 第2ヴァイオリン 小池まどか 丹沢広樹 奥村琳 影山優子; ヴィオラ 中島由布良 諸岡涼子; チェロ 北嶋愛季 十代田光子; コントラバス 井上陽; オーボエ 江藤浩司; トランペット 内藤知裕; オルガン 渡部聡)/合唱 つくば古典音楽合唱団


【プログラムと演奏録音】
Girolamo Cavazzoni (1525 - 1577) カヴァッツォーニ
Recercar quarto (Libro primo 1543) リチェルカーレ第4番 33-01.mp3 : 7.6MB
Giovanni Pierluigi da Palestrina (1525 - 1594) パレストリーナ
Sicut cervus 鹿が水を求めあえぐように 33-02.mp3 : 6.9MB
Girolamo Cavazzoni (1525 - 1577) カヴァッツォーニ
Hymnus "Ave Maris Stella" 讃歌「めでたし海の星」 33-03.mp3 : 3.5MB
Giovanni Pierluigi da Palestrina (1525 - 1594) パレストリーナ
Super flumina Babylonis バビロン川のほとりで 33-04.mp3 : 5.4MB
Girolamo Frescobaldi (1583 - 1643) フレスコバルディ
Toccata avanti la messa della Domenica
(Fiori musicali 1635)
ミサ前奏のトッカータ 33-05.mp3 : 4.2MB
Claudio Monteverdi (1567-1643) モンテヴェルディ
Laudate pueri しもべらよ、主を讃めたたえよ 33-06.mp3 : 9.2MB
Girolamo Frescobaldi (1583 - 1643) フレスコバルディ
Toccata per le levatione (Fiori musicali 1635) 聖体拝領のためのトッカータ 33-07.mp3 : 4.7MB
Claudio Monteverdi (1567-1643) モンテヴェルディ
Confitebor terzo alla francese 主よ、私はあなたに感謝を捧げる
第3番フランス風
33-08.mp3 : 10.5MB
-休憩-
Antonio Vivaldi (1678 - 1741) ヴィヴァルディ
L'estro Armonico, Op.3 Concerto VIII
con due Violini obligati (La minore), RV522
二つのヴァイオリンのための協奏曲 イ短調33-09.mp3 : 5.3MB
33-10.mp3 : 4.2MB
33-11.mp3 : 4.7MB
Antonio Vivaldi (1678 - 1741) ヴィヴァルディ
Gloria, RV 589 グローリア (栄光の賛歌)
Ⅰ. Gloria in excelsis Deo 天のいと高きところには神の栄光あれ 33-12.mp3 : 3.5MB
Ⅱ. Et in terra pax hominibus 地には人々に平和あれ 33-13.mp3 : 6.7MB
Ⅲ. Laudamus te 私たちは主をほめ 33-14.mp3 : 3.5MB
Ⅳ. Gratias agimus tibi 私たちは感謝申し上げる 33-15.mp3 : 0.7MB
Ⅴ. Propter magnam gloriam 大いなる栄光のゆえに 33-16.mp3 : 1.3MB
Ⅵ. Domine Deus 神なる主よ 33-17.mp3 : 5.5MB
Ⅶ. Domine Fili Unigenite 御ひとり子なる主よ 33-18.mp3 :3.3MB
Ⅷ. Domine Deus, Agnus Dei 神なる主、神の子羊よ 33-19.mp3 : 5.5MB
Ⅸ. Qui tollis peccata mundi 世の罪を除きたもう主よ 33-20.mp3 : 1.5MB
Qui sedes ad dexteram 右に座したもう主よ 33-21.mp3 : 3.6MB
Ⅺ. Quoniam tu solus Sanctus あなたのみが聖なる方 33-22.mp3 : 1.2MB
Ⅻ. Cum Sancto Spiritu 聖霊とともに 33-23.mp3 : 4.1MB

 
Encore: Antonio Vivaldi
Quoniam tu solus Sanctus & Cum Sancto Spiritu あなたのみが聖なる方 & 聖霊とともに 33-24.mp3 : 5.3MB


【プログラムノート】
鈴木 優

 本日はお忙しい中、つくば古典音楽合唱団 第33回定期演奏会にご来場いただき、まことにありがとうございます。昨年、当合唱団は創立30周年という記念すべき年を迎えることができました。これも多くの方々のご支援の賜物であると、心よりの感謝を申し上げます。さらなる歩みの第一歩となる今回のプログラムは、合唱団創立時の初心を忘れないことを意識して組み立てました。       もし演奏を気に入っていただき、ご興味を持たれる方がいらっしゃいましたら、どうか当合唱団にご参加いただき、ご一緒に歌っていただければと心よりお願い申し上げる次第でございます。

本日の演奏会では後期ルネサンスのジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ(Palestrina, Giovanni Pierluigi da 1525 - 1594)、初期バロックのクラウディオ・モンテヴェルディ(Monteverdi, Claudio 1567 - 1643)、盛期バロックのアントニオ・ヴィヴァルディ(Vivaldi, Antonio 1678 - 1741)という各時代を代表するイタリアの三人の作曲家の作品を演奏いたします。また、本日は宗教音楽だけではなく、同時代の作曲家のオルガン曲、オーケストラによる協奏曲などの器楽曲も併せてお聴きいただきます。

ルネサンス期で最も重要な作曲家のひとり、パレストリーナは、ローマ近郊のパレストリーナという所に1525年に生まれました。出身地の名前が本人の通称となっています。1544年に故郷でオルガニストとなり、1551年にローマ・聖ピエトロ寺院歌手、1554 - 60年ラテラーノ教会楽長、1567年エステ枢機卿楽長、1571年には聖ピエトロ寺院第2楽長の地位を得ました。生涯のほとんどをローマで過ごし、90以上のミサ曲、500曲以上のモテット、約100曲のマドリガルなどを残しました。 パレストリーナの音楽の特徴は、15~16世紀半ばのフランドル出身の音楽家たちが極めた声楽ポリフォニーの技法と、イタリア的な旋律や豊かな和声を統合したものだといえるでしょう。順次進行の多い柔らかな旋律線、安定した協和音、注意深く控えめに用いられた不協和音、バスの声部が多くの部分で和声の根音となっているといった要素が大きな聖堂で美しく響くパレストリーナ独特の調和のとれた世界を形成しています。 詩篇第42篇をテキストとする "Sicut cervus" と、続く第二部の "Sitivit anima mea" は、1584年に出版された『第2モテット集』に収められています。各声部が水平に旋律を歌い重ねつつ、同時に垂直方向にも美しく和声が響く典型的な声楽ポリフォニーの様式です。しかし同時に歌詞の内容表現も十分に行われています。 "Super flumina Babylonis" も1584年の曲集の中の曲で、パレストリーナ自身が最も好んだ曲と伝えられています。哀調を帯びたこのモテットのテキストは、詩篇第137篇からとられています。紀元前586年にイスラエル民族のユダ王国がバビロニアによって滅ぼされ、エルサレムの住民がバビロニアに連行される、バビロン捕囚という事件が起こります。この詩篇は、その捕囚民の望郷の思いと悲しみを歌ったものです。

モンテヴェルディは1567年5月15日に、ヴァイオリン制作で有名なロンバルディ地方の町クレモナに生まれました。早くから音楽の才能を現していたモンテヴェルディは当地の大聖堂楽長であったマルカントーニオ・インジュネーリの教えを受け、15歳にして最初の作品集『三声の聖歌曲集』を出版しています。1590年、23歳の年にマントヴァ公爵のヴィンチェンツォ1世の宮廷に歌手兼ヴィオール奏者として就職し、1601年には宮廷楽長に就任します。マントヴァ時代は、最愛の妻クラウディアに若くして先立たれるなど生活上の困難はありましたが、創作上では実り豊かな時期でした。1603年の『マドリガーレ集第4巻』、そして通奏低音が付された1605年の『第5巻』は新しい表現様式を確立しました。また1607年に初演されたオペラ「オルフェオ」は、400年間のオペラ史の中でも最高水準のものです。 1612年2月にヴィンチェンツォ1世が亡くなった後モンテヴェルディは解雇され、クレモナに帰りますが、ヴェネツィアから招聘を受け1613年8月19日にサン・マルコ大聖堂の楽長となります。そして残りの30年間の人生をここで送りました。 ヴェネツィア時代のモンテヴェルディは多くの教会音楽を作曲しました。その中でも精選された40曲が『倫理的・宗教的な森』と題され1640年に出版されます。モンテヴェルディ自身は65歳の年に聖職者となりましたが、その後も世俗的音楽の作曲も続け、「戦いと愛のマドリガーレ」、そして晩年近くにも1641年に「ウリッセの帰郷」、1642年に「ポッペアの戴冠」と二本のオペラを作曲しました。1643年11月29日、悪性の熱病によってモンテヴェルディはその76年間の生涯を閉じます。多くのヴェネツィア市民が参列する盛大な葬儀が行われ、フラーリ教会に埋葬されました。 モンテヴェルディの音楽の基礎は、当時すでに「古様式」と呼ばれていたフランドルの音楽家からパレストリーナに至る対位的なポリフォニー様式です。モンテヴェルディはこれを「第一の作法」と呼んでいます。そして「新様式」と呼ばれる、通奏低音の上に独唱・合唱・独立した器楽の声部が自由に応答する協奏様式が16世紀の終わり頃から台頭してきます。モンテヴェルディはこれを「第二の作法」と呼んでいます。この時代に音楽のあり方をめぐって、それぞれの様式の信奉者たちの間で論争がありました。しかしモンテヴェルディは、この両方の様式を完全に使いこなし、融合させるという独自な作曲技法を示しました。

「しもべらよ、主を讃めたたえよ」(Laudate pueri)は、モンテヴェルディの死後1651年に出版された遺作集に収録されています。「五声部のア・カペラで」と指示されており、ポリフォニー様式が基本となっています。しかしながら、変化に富んだリズムや和声、そして結尾の小栄誦(「父、御子、聖霊に栄光あれ」以降の部分)で冒頭の主題が回帰した後の展開など、モンテヴェルディならではの音楽となっています。 「主よ、私はあなたに感謝を捧げる 第3番」(Confitebor)は『倫理的・宗教的な森』に収められています。この曲には「フランス風の様式の五声部で、ただしソプラノ声部を独唱にし、四つのヴィオラを用いることもできる」と指示されています。本日の演奏ではソプラノ独唱(部分的に二重唱)、五声部の合唱と通奏低音で演奏いたします。「フランス風」というのは、この曲の冒頭に聴かれるように、まず独唱者が歌ったフレーズをそのまま合唱が反復するという形を指すようです。結尾の小栄誦では当時のオペラ「オルフェオ」などに聴かれるような技巧的なコロラトゥーラのパッセージが独唱者によって歌われます。

ヴィヴァルディは1678年3月4日にヴェネツィアに生まれました。父、ジョヴァンニ・バッティスタはヴァイオリニスト兼作曲家として知られていました。妻カミッラ・カリッキオとの間には6人の子供があり、アントニオは最初の子供でした。ヴィヴァルディは父からヴァイオリン演奏法を学び、1693年から1703年にかけては聖職者になるための教育を受けます。しかし司祭になってから間もなく、ミサの司式をしなくなります。ヴィヴァルディはその理由を喘息の持病によるものと弁明していましたが、音楽に専念するためではなかったかと推測されています。当時のヴェネツィアには私生児や捨て子であった少女を救済するための養育院が4つありました。その中の一つであるピエタ養育院は特に音楽を重要視して、才能のある少女に音楽教育を授けました。ピエタ養育院の少女たちによる礼拝式での演奏は大変な評判でした。ヴィヴァルディは1703年にピエタ養育院のヴァイオリン教師となり、後により責任のある地位に就き教会音楽の作曲をする機会も与えられました。この頃からヴィヴァルディは作曲家としての名声を得ることを望んでいました。1705年には12曲のトリオ・ソナタが作品1としてヴェネツィアで出版されました。そして1711年にはアムステルダムで「調和の霊感」と題された協奏曲集が作品3として出版されました。本日はその曲集中作品3‐8の二つのヴァイオリンのための協奏曲を演奏いたします。作曲家兼ヴァイオリン演奏家として有名になったヴィヴァルディはその後各地を旅行します。1723年と1724年の謝肉祭のシーズンにはローマ教皇の招待に応じてローマで演奏し、1728年には神聖ローマ皇帝カール6世と会っています。その後も各地への客演や、毎年のシーズンごとにオペラの作曲を続けます。しかし晩年にはヴェネツィアの聴衆の好みはヴィヴァルディから次第に離れていき、1741年7月28日にはウィーンの馬具屋の未亡人の家で没し病院墓地に貧困者として埋葬されました。当時のヴェネツィアの記録に「かつては5万ドゥカーテンの収入を得ていたヴィヴァルディが、浪費のため貧困のうちに没した」と書かれています。 約60曲が残されているヴィヴァルディの教会音楽は、正確な作曲年代や当時の演奏記録などがいまだに不明です。イタリアのトリノ国立図書館に所蔵されている約300曲の筆写譜のうち5巻分が教会音楽にあたります。これらの楽譜は本来1764年以降ヴェネツィア駐在オーストリア大使をつとめたジャコモ・デュラッツォ伯爵が収集したもので、それが1930年頃に、とある修道院で発見されその土地の素封家によって図書館に寄贈されたという経緯のものです。「グローリア RV589」も自筆譜の筆跡から1715年頃の作品と考えられています。この曲は弦楽合奏、通奏低音、4声部合唱のほかに各1本のオーボエとトランペット、3名の声楽ソリストのために作曲されており、輝かしい響きの楽章や内省的な祈りの楽章、合唱とソリストの対比など変化に富んだ音楽となっています。全体は12の部分に分けて作曲されています。「天のいと高きところには神に栄光あれ」はトランペットを伴う輝かしい音楽であり、「地には人々に平和あれ」はナポリの6の和音が印象的な深い祈りの音楽です。続く「私たちは主をほめ」はバロック・オペラを思わせるソリストの二重唱です。「私たちは感謝申し上げる」は荘厳な和声の合唱であり、続く「大いなる栄光のゆえに」は小さなフーガとなります。「神なる主よ」はオーボエによるオブリガート付きの牧歌的なアリアです。「御ひとり子なる主よ」は付点のリズムによる、3拍子の活気のある合唱曲です。続いてアルト独唱と合唱によって「神なる主、神の子羊よ」が敬虔な対話として歌われ、さらに「世の罪を除きたもう主よ」が切実な願いの合唱として続きます。「右に座したもう主よ」がアルトのアリアとして歌われ、「あなたのみが聖なる方」ではトランペットを伴う第1曲の音楽が回帰します。終曲の「聖霊とともに」はフーガによって全曲を締めくくります。

本日は古楽器によるオーケストラと共にA=415Hzのピッチで演奏いたします。これは現代における古楽器によるバロック音楽演奏の標準的なピッチです。ちなみに現代の標準ピッチA=440Hzは1939年にロンドンでの国際会議で決められたものです。

≪オルガン曲≫   渡部 聡

ジローラモ・カヴァッツォーニは1525年頃、ウルビーノに生まれました。父親マルカントニオも高名なオルガニストでした。パレストリーナとちょうど同じ時期にマントヴァを中心に活躍しました。この頃のオルガン曲はほとんど声楽ポリフォニーを鍵盤上に移したようなスタイルで、器楽的な要素はまだ顕著ではありません。

約半世紀を隔て、17世紀に入ると鍵盤楽器独自の書法が確立します。ジローラモ・フレスコバルディはローマのサンピエトロ大聖堂のオルガニストを務め、鍵盤のヴィルトゥオーゾとして名声を博しました。特に即興的で幻想的なトッカータの様式を確立し、その後のイタリアのみならずヨーロッパ全体の鍵盤音楽に大きな影響を残しました。本日の曲目は1635年に出版された「音楽の花束」と題された曲集に含まれています。