第4回定期演奏会《16~20世紀 合唱音楽の流れ》1990.12.7

<演奏者>
指揮 鈴木優 / ソプラノ 木島千夏 / ヴィオラ・ダ・ガンバ 小澤絵里子 / オルガン 渡部聡 / 合唱 つくば古典音楽合唱団


<プログラムと演奏録音>

P.Bruna (1611-1679) ブルーナ
Piento sobre la Letanio de la Virgen 聖母マリアの連禱によるピエント 04-01.mp3 6:15
G.P.da Palestrina (1525-94) パレストリーナ
Dies Sanctificatus 聖なるかなこの日 04-02.mp3 2:28
T.L.de Victoria (1548?-1611) ビクトリア
O Magnum Mysterium 大いなる秘蹟 04-03.mp3 2:44
W.Byrd (1543-1623) バード
Ave verum corpus まことのおからだよ 04-04.mp3 3:17
P.P.Bencini (1675-1755) ベンチーニ
Jesu, Redemptor Omnium イエス、万民の救い 04-05.mp3 7:05
C.Monteverdi (1567-1643) モンテヴェルディ
Vespro della Beata Vergine
(xii) Ave Maris Stella
<聖母マリアの夕べの祈り>より
 第12曲 めでたし海の星
04-06.mp3 7:50
M.Durufle (1902-1986) デュリュフレ
Quatre Motets sur des Thèmes Grégoriens
op.10
無伴奏合唱のためのグレゴリオ聖歌の主題による
4つのモテット
04-07.mp3 ***
 Ⅰ.Ubi caritas et amor  慈しみと愛のあるところ
 Ⅱ.Tota pulchra es  すべてに美しく
 Ⅲ.Tu es Petrus  あなたはペテロである
 Ⅳ.Tantum ergo  これほど大きい秘蹟を
-休憩-
J.Brahms (1833-1897) ブラームス
Warum ist das Licht gegeben dem Müseligen?
op.74 Nr.1
なにゆえ悩むものに光が与えられたのか 04-08.mp3 7:57
H.Schuez (1585-1672) シュッツ
Eile, mich, Gott, zu erretten, SWV 282 神よ、すみやかにわたしを救ってください 04-09.mp3 3:14
Selig sind die Toten 主にありて死ぬる死人は幸いなり 04-10.mp3 3:45
J.S.Bach (1685-1750) バッハ
Lobet den Herrn, alle Heiden もろもろの異邦人よ、主を讃えよ 04-11.mp3 6:40
Encore: Durufle 04-12.mp3 ***
Encore: Bencini, Jesu, Redemptor Omnium 04-13.mp3 7:10

<プログラムノート> 鈴木優

今回の演奏会のプログラムは16世紀後半から今世紀にかけてという幅広い時代の作品が集められています。おもに恋愛など、個人的感情を題材としたマドリガーレなどの世俗曲は、より室内楽的な編成で演奏されるべきものであると考えて除外し、宗教音楽によってプログラムを構成いたしました。

*  *  *

前半はカトリック教会の典礼音楽です。

最初の3曲は、イタリアのパレストリーナ、スペインのビクトリア、イギリスのバードという後期ルネサンスを代表する作曲家の作品です。彼らに先立つ、デュファイやジョスカンといったフランドルの音楽家たちが確立した、ポリフォニーの様式を継承しつつ、その調和のとれた美の世界に劇的な表現力を盛り込んでいった彼らの作品には、すでにバロック芸術の要素も多分に見い出せるでしょう。

続く2曲は、イタリア・バロックの作品です。ベンチーニはバッハやヘンデルと同時代の教会音楽家です。このクリスマスの讃歌は、終始 12/8 拍子のシチリアーノと呼ばれる舞曲のリズムから成っています。このリズムは羊飼いを連想させるもので、メサイアなどにも用いられています。この曲では17世紀まで支配的であったポリフォニー様式は見られず、バロック音楽独特の様式である通奏低音の上で独唱とホモフォニックな合唱が歌い交わしていきます。

ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂の楽長であったモンテヴェルディは、ポリフォニー様式とモノディー様式という新旧両方の手法を使いこなした、音楽史上最高の巨匠のひとりです。「めでたし海の星」は 1610年に出版された『聖母マリアの夕べの祈り』の中の讚歌です。グレゴリオ聖歌の旋律を定旋律とし、冒頭の充実した響きの8声部の合唱に続き、同じ旋律を3拍子に変化させたものを4声部のホモフォニックな合唱で歌います。さらに、器楽によるリトルネッロをはさみながら、3人の独唱者が定旋律を歌い、最後にもう一度、冒頭の合唱が繰り返されるという多様な構成をもっています。

「グレゴリオ聖歌の主題による4つのモテット」は 1960年に出版されました。デュリュフレは、教会のオルガニストやパリ音学院の教授を務ましたが、作曲家としても宗教音楽やオルガン曲にすぐれた作品を残しています。特に「レクイエム」は近年良く知られるところとなりました。この4曲では、伝統的なグレゴリオ聖歌の旋律と、近代フランス和声との見事な融合が見られます。また、グレゴリオ聖歌の旋律の解釈には、グレゴリオ聖歌研究の中心であるソレム修道院の演奏解釈が反映されています。

*  *  *

後半のプログラムではドイツ・プロテスタント教会の宗教音楽を、お聴きいただきます。

ブラームスは、4曲の交響曲をはじめとする器楽曲や歌曲の作曲家として知られていますが、合唱曲の分野でも、「ドイツ・レクイエム」のような管弦楽付きの大曲の他、7曲のモテット、約30曲のオリジナル作品、そしてドイツ民謡の編曲集が残されています。「なにゆえ、悩む者に光が与えられたのか」は 1877年の作品で、バッハの研究者フィリップ・シュピッタに献げられました。全体は4つの部分からなり、第1部のテキストは旧約聖書の「ヨブ記」より採られ、苦しみに満ちた問いかけが歌われます。第2部は6声のカノンで、「天の神に向って、手とともに心も上げよう」というテキストにふさわしい上行音型の主題が歌われ、続く第3部では新約聖書の「ヤコブの手紙」より、忍耐強く耐える者を讃えるテキストが歌われます。この部分は、第1部の問いに対する答えと見ることができるでしょう。第4部は、ルターによる有名なコラールをバッハのスタイルで和声付けした4声体です。カトリックの教会音楽の土台がグレゴリオ聖歌であるとするなら、プロテスタントの教会音楽の土台は何といってもコラールにあるといえるでしょう。

バッハに先立つこと、ちょうど100年前に生まれたシュッツの作品を2曲演奏いたします。1曲目は 1636年に出版された『小教会コンツェルト集』第1集の中のもので、通奏低音の伴奏による独唱用のモテットです。シュッツはこの曲に「オラトリオの様式で」と表記し、朗唱的な劇的に語られる演奏を、指示しています。「主にあって死す者は幸いなり」は 1648年に出版された『教会合唱曲集』第1集に含まれるものです。シュッツはこの曲集の序文で、対位法による作曲技法の重要さを述べています。新約聖書の「ヨハネ黙示録」の語句をテキストとする、このモテットのもつ限りない慰めと力強さは、真にシュッツならではの境地であるといえるでしょう。

プログラムの最後は、バッハのモテットでしめくくりたいと思います。今日、6曲が伝えられているバッハのモテットは、葬儀などの機会に際しての依頼に応じて作曲されました。「もろもろの異邦人よ、主を讃えよ」は4声部の合唱と通奏低音という編成で書かれています。この曲は作曲された当時の楽譜は現存せず、19世紀になってからの印刷譜でのみ伝わっており、成立年代や、その事情は不明なままとなっております。独立したモテットではなく、失われたカンタータの中のひとつの楽章ではないか、という説も有力です。


【歌詞対訳】

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