<演奏者>
指揮 鈴木優 / アルト 阪口直子/ テノール 斉藤新一 / バリトン 山崎岩男 / リコーダー 吉澤徹,荒巻朋康 / ヴィオラ・ダ・ガンバ 風早一恵,橋爪香織,小澤絵里子 / オルガン 渡部聡 / 合唱 つくば古典音楽合唱団
<プログラムと演奏録音>
Johann Gottfried Walther (1684-1748) | ワルター | ||
Jesu, meine Freude | 「イエスよ、わが喜びよ」によるコラール前奏曲 | 03-01.mp3 3:32 | |
Johann Sebastian Bach (1685-1750) | バッハ | ||
Motette Nr. 3, “Jesu, meine Freude”, BWV227 | イエスよ、わが喜びよ | ||
1. | Choral “Jesu, meine Freude” | 03-02.mp3 1:04 | |
2. | Chor “Es ist nun nichts Verdammliches an denen” | 03-03.mp3 2:43 | |
3. | Choral “Unter deinen Schirmen” | 03-04.mp3 1:11 | |
4. | Chor “Denn das Gesetz des Geistes” | 03-05.mp3 1:00 | |
5. | Choral “Trotz dem alten Drachen” | 03-06.mp3 2:14 | |
6. | Chor “Ihr aber seid nicht fleischlich” | 03-07.mp3 2:57 | |
7. | Choral “Weg mit allen Schaetzen!” | 03-08.mp3 1:05 | |
8. | Chor “So aber Christus in euch ist” | 03-09.mp3 1:55 | |
9. | Choral “Gute Nacht, o Wesen” | 03-10.mp3 3:26 | |
10. | Chor “So nun der Geist des” | 03-11.mp3 1:29 | |
11. | Choral “Weicht, ihr Trauergeister” | 03-12.mp3 1:14 | |
-休憩- | |||
Johann Sebastian Bach (1685-1750) | バッハ | ||
Kantate Nr.106 —- Actus Tragicus “Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit”, BWV106 |
神の時こそいと善き時 | ||
1. | Sonatina | 03-13.mp3 2:23 | |
2. | Chor “Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit” Arios (Tenor) “Ach, Herr, lehre uns bedenken” Arie (Bass) “Bentelle dein Haus” Chor und Arioso “Es ist der alte Bund” “Ja, komm, Herr Jesu, komm!” |
03-14.mp3 8:55 | |
3. | Arie (Alt) “In deine Haende befehl ich meinen Geist” Arioso (Bass) und Choral “Heute wrist du mit im Paradiese sein” “Mit Fried und Freud ich fahr dahin” |
03-15.mp3 6:00 | |
4. | Chor “Glorie, Lob, Ehr und Herrlichkeit” | 03-16.mp3 3:14 | |
Encore: Kantate Nr. 106 “Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit” BWV106 | 03-17.mp3 3:05 |
<プログラムノート> 鈴木優
モテット第3番「イエスよ、わが喜びよ」BWV227
モテット第3番「イエスよ、わが喜びよ」は、1723年7月18日にライプツィッヒ聖ニコライ教会で行われた、中央郵便局長未亡人ヨハンナ・マリーア・ケーゼの追悼礼拝の際に歌われるために作曲されました。
バッハの現存する6曲のモテットは、すべて祝典や葬儀のために依頼されて作られたものです。それらの依頼はバッハにとって貴重な臨時収入をもたらすものであったようで、友人にあてた手紙の中には「しかし、ひとたび健康な風が吹くと、反対に収入は減り、例えば昨年は、葬儀によってふだん得られる臨時収入を100ターラー以上も失った次第であります。」といった文面も残っております。
このモテットは、J・クリューガーが1656年に作曲したコラール(ドイツ・プロテスタント教会の賛美歌)「イエスよ、わが喜びよ」による6節からなるコラール編曲の間に、おそらく故人の意志によって選ばれたであろう、「ローマ人への手紙」第8章の詩句をテキストとする5曲の合唱曲をはさみ込んでいくという構成をとっています。全曲は11の部分からなっているわけですが、第1曲と終曲が比較的単純な4声のコラール編曲であり、また第2曲を短縮したものが第10曲にあたるというように、中央に位置する第6曲のフーガを軸に完全な対称形を形作っています。
細部に目を向けますと、歌詩の言葉を象徴的に、あるいは絵画的に描写する音型が多用されています。例えば「霊」(Geist)という言葉には、肉体に制約されない自由さを表すかのように、柔軟なメリスマが与えられておりますし、「陰府(よみ)の淵」(Abgrund)という言葉では各声部が一気に下降する音型が歌われます。このような手法はルネサンスや初期バロックの主にマドリガーレなどで、ひんぱんに用いられましたが、バッハの時代に於いても、重要な音楽の発想法であったといえるでしょう。
本日の演奏は、3~5声部の合唱にオルガンとヴィオラ・ダ・ガンバという構成で行います。
またモテットに先立って演奏されるオルガンの独奏曲も、同じコラールを主題にしたものでありますので、その点もお聴きいただけれぱと存じます。
カンター夕第106番「神の時こそいと善き時」 BWV106
現在、私たちには200曲に少々満たないという数の、バッハの教会カンタータが残されています。(バッハは約300曲の教会カンタータを作曲し、そのうち約100曲が失われてしまったと推定されています。)
カンタータ第106番「神の時こそいと善き時」は最も初期のカンタータで、ミュールハウゼンの教会オルガニストであった1707年に、母方の伯父の葬儀のために作曲したと伝えられています。ちなみに、バッハのカンタータ番号は作曲年代などには全く関係がなく、19世紀に旧バッハ全集が編さんされた時に、とりあえず与えられた番号にすぎません。バッハの初期のカンタータは、ライプツィヒのトマス・カントールに就任した1723年以降の作品と比べても独特の魅力に満ちあふれているといえるでしょう。
第106番では、2本のリコーダー、2台のヴィオラ・ダ・ガンバ、そして通奏低音というユニークなオーケストレーションによる響きが、まず聴く者の耳を引きつけるでしょう。この穏やかな序奏は、この音楽を聴く者の心を大変感性豊かな状態に導くのに役立つと思われます。
それに続く、合唱~テノールとバスの独唱によるアリオーソ~合唱と続く大きな楽章は、テキストの変化に応じて、豊かな楽想が次々に繰り出されていきます。このカンタータ全体を通じて、レチタティーヴォやダ・カーポアリアといった類型的な形式を一切用いていないことも重要な特徴であるといえましょう。
この楽章の最後の合唱では、アルト以下の3声による「そは古き絆なり、人よ、汝は死すべきなり」という絶望的なフーガに対して、ソプラノによる「しかり、来たれ、主イエスよ、来たれ」と歌う旋律が答え、真に救いたる光明が差し込んだかのような効果をうみ出します。またこの時にリコーダーが「我わがことを神に委ねたり」というコラールの旋律を演奏することも注目するべきでしょう。続くアリアではアルト独唱が、すでに死に対する恐れを克服したかのように詩篇によるテキストを歌い、更にイエスが十字架上で言った「今日、汝はわれとともにパラダイスにあるべし」という聖句をバスが独唱するのを受けて、われわれ一般の人間の声の象徴であるコラールのうち、「われ神のみ心のままに心安らかに喜びてかの地に行かん」が合唱によって歌われます。イエスの言葉と、一般の人間の言葉による応答とが、二重に進行していく楽想のすばらしさは筆舌に尽くし難く、この部分は全曲中の感動の中心であると思われます。
終曲は、喜びと力強さにあふれたコラール「栄光と賛美と栄誉と主権とが」とそれに続く生命力にあふれた二重フーガによる「アーメン」でしめくくられます。
バッハの22才の時の作品でありながら、キリスト教的死生観の奥深い把握、そしてそれを音化する完成された技術は実に驚くべきものであります。